整形外科では、脳性麻痺の装具療法・リハビリテーションを中心に、先天性股関節脱臼・先天性筋性斜頸・ペルテス病・その他の下肢変形(O脚・X脚・外反扁平足など)・脊椎変形等の小児整形外科疾患全般の診断・治療を行っています。
保存療法が主体で、手術療法は行っておりません。
以下に主な疾患の当院における治療方針についてご説明します。
上肢・下肢・体幹の変形に対して、ボイタ法を中心としたリハビリテーション・ボツリヌス毒素治療・装具療法を行っています。筋緊張を和らげることにより、上肢では食事・更衣・書字などの日常生活動作を、下肢では四つ這い・起立・歩行などの移動機能を改善すると共に股関節の亜脱臼・脱臼を改善します。体幹では側弯変形を改善し、姿勢を良くして安定して座れるようにします。重心児者では、筋緊張が和らぐと痛みが軽くなり、オムツ交換がしやすくなり、手指や陰部の衛生面での改善など、介護上の問題も改善します。
産科・小児科・保健センターの健診などで股関節の開排制限(股が開きにくい)を指摘された子どもさんに対して、超音波エコー検査・レントゲン検査を行い、診断・治療を行っています。
生後20目頃から頚部の筋肉にしこりが現れて、頚部や顔面の変形を来す疾患です。9割以上が1才までに自然治癒します。他の原因による斜頚と鑑別しながら、診療を進めます。
何らかの原因で大腿骨頭の血流が途絶えて、そのために大腿骨頭の骨が壊死して潰れてくる疾患です。壊死した骨が吸収されて新しい骨が出来て治癒しますが、新しく出来る骨が変形の少ないきれいな形になるように治療をします。
治療方法には装具治療と手術治療があり、治療を受ける病院によって方針が違います、当院では開院以来手術は行わず、装具治療を行う方針にしていますが、早期発見・早期治療を行えば、90%以上の子どもさんに良好な治療成績が得られています。
O脚・X脚・外反扁平足等の変形に対して、装具治療を行っています。変形によっては自然治癒するものもありますので、基礎疾患や変形の程度を見て治療が必要かどうかを判断しています。
脊椎側弯症・後弯症などの変形に対して、矯正体操指導・装具治療を行っています。第2・4土曜日の側弯症専門外来にて、専門医が診療を担当しています。
先天性疾患(染色体異常・麻痺性疾患・筋原性疾患)による障害児・者の整形外科治療(装具療法・リハビリテーションなどの保存療法)を行っています。
整形外科外来の診療は、全て予約診療で行っています。
整形外科外来(直通TEL 075-463-5631 平日11時~16時)で予約を取っていただくことにより、比較的待ち時間が少なく診察を受けていただけます。初診の患者さんも必ず予約をお取り下さい。
なお、30分単位の複数予約制ですので、夏休み・冬休み・春休みなどの学休期間や連休明けなどは、混雑して長い時間お待ちいただくことがあります。悪しからずご了承下さい。
ご不明な点があれば、お気軽に整形外科外来までお問い合わせ下さい。
整形外科医師
医学博士・整形外科専門医・運動器リハビリテーション医
1982年滋賀医科大学卒業
高校2年生の時に、ハンドボールの試合中に左足関節の脱臼骨折を受傷し、ヨゼフで手術をして頂きました。わずか1ヶ月半の入院でしたが、その時に出会った身体の不自由な子どもたちの素直な明るい笑顔を忘れることが出来なくて、迷うことなくこの道に進みました。どんなに重い障害を持っていても、いつも笑顔で迎えてくれる子どもたち。その笑顔を心の糧として、また力をもらって、微力ながら毎日頑張っています。
趣味:読書・ウォーキング・音楽鑑賞・美術館巡り・居酒屋探訪
赤ちゃんから学齢期の子どもさんまで、心身の発達についての問題を診察しています。診察の結果、リハビリテーションが望ましいと思われる方には、ボイタ法を中心とする理学療法、作業療法、言語聴覚療法、外来での保育などを受けていただきます。対象となるのは、脳性麻痺※やその心配のある子どもさん、発達の遅れ、自閉症などの発達障害、二分脊椎※などの先天的な疾患、病気や事故による脳障害などです。
5週間の親子入院や年齢によっては子どもさんだけの単独入院による集中リハビリテーションも行っています。また重症心身障害で食事指導やリハビリテーションを希望される方は成人の方でもご相談に応じます。
※脳性麻痺
出生前から生後1カ月までの間に脳に障害を受けたためにおこる姿勢運動発達の障害です。程度はさまざまですが、早期に発見してリハビリテーションや総合的な療育を受けることが大切です。
※二分脊椎
胎児期に背骨がうまく形成されず、背中側が開いた状態になっています。なかでも脊髄髄膜瘤では脊髄の神経が外に出てきているので手術治療の後は、神経の働きを改善するリハビリテーションが重要です。
おっぱいが上手に飲めない、抱きにくいなどの育てにくい赤ちゃんでは、そりかえりや左右差など姿勢の問題が原因であることがしばしばです。外来診察での赤ちゃんの状態により、抱き方や遊ばせ方などの日常の過ごし方をお話ししたり、理学療法士によるボイタ法を軸にした運動機能療法(理学療法)をお勧めします。お子さんの状態や御家族の状況によっては母子入院もお勧めしています。
脳性麻痺・染色体異常・二分脊椎・分娩麻痺・筋疾患・骨関節疾患などの病気や中途障害を持つお子さんに対して運動機能療法(PT)をはじめ作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)・摂食機能療法など総合的な訓練を行っています。訓練には、通院による訓練のほかに母子入院や単独入院(幼児期後半ころからのお子さんだけの入院)の制度もあります。
発達を伸ばすためには、訓練だけでなく保育も大切なので、外来保育や通園療育(肢体不自由児通園:ひばり学園)などによる発達支援も行なっています。外来保育や通園療育は、お母さんにとっての『仲間との出会い』の場でもあります。障害を持つお子さんの育児に際しては、『仲間との出会い』は『家族の絆』とともにとても大切なことです。
発達障害児に対する個別での作業療法・言語療法を6ヶ月クール制で行っています。学齢児に対しては、ルールのある集団での遊びなどの取り組みもしています。保育園・幼稚園・学校との連携を目標としています。
重症心身障害の方では、身体の変形、呼吸や摂食機能、消化器系の問題などが年齢とともに進行しがちで、訓練によってこれらを少しでも防ぐことが大切です。摂食嚥下障害に対してはVF検査(嚥下造影検査)を行い、誤嚥を少なくする方策を検討します。また日中の活動を豊かにする保育・療育もかかせません。これらのことは、外来(在宅)・入所のいずれの方にも共通のことです。
具体的には、在宅の方は、ひばり学園(幼児のための母子通園)、重症心身障害児者通園事業:くぬぎにより訓練と保育・療育を受けていただけます。小児科医も、健康管理や発達育児相談・支援をおこないます。また日中一時支援や短期入所に際しての健康管理も担当します。
麦の穂学園は重症心身障害児者の入所施設で年齢に関わりなく利用できます。健康を保つ医学的管理、訓練、療育を日々行っています。
ボイタ法はチェコスロヴァキア出身のボイタ教授によって発見された『反射性移動運動』を利用した運動機能障害に対する治療法です。
ボイタ教授は、子どもに特定の姿勢をとらせ、特定の場所(誘発帯)に適切な刺激を与えると、体幹と四肢に周期的な運動反応(筋収縮)が引き出されることを発見し『反射性移動運動』と名づけました。教授はその反射性の運動が新生児でも大人でも脳性麻痺児でも引き出されることを確かめ、人類の脳に生まれつき備わっている運動パターンであると考えました。
その運動パターンは正常運動発達の過程では自然に現れて来ますが、脳性麻痺児では自然には出現することが出来ず、治療によって引き出す必要があります。引き出された反応を自分のものにする可能性は、脳の可塑性から考えても脳損傷の時期に近いほど、月齢が小さいほど大きいはずです。しかし、軽い脳性麻痺では1歳半~2歳以上にならないと確定診断は困難です。そこで教授は独特の早期診断の方法を考案しました。
ボイタ教授について
ボイタ教授は1917年7月12日、チェコ共和国のモロスキー/ボヘミアで生まれ、2000年9月12日、ミュンヘンで亡くなりました。彼は神経科医であり小児神経科医でもありましたが、肢体不自由児施設に勤めていた時に反射性移動運動を発見しました。
1968年プラハの春・チェコ事件に出会い、ドイツに亡命した後、ケルン大学整形外科とミュンヘン小児センターで活躍し、1990年からは再びプラハのカールス大学で教鞭をとりました。
ボイタ教授は多数の科学分野における表彰を受けておられますが、整形外科領域でもっとも卓越した人に与えられるハイネ賞の受賞は特筆に値します。
先ず、仰向きやうつ伏せでの赤ちゃんの姿勢の特徴を観察します。向き癖があると一方の手は舐めたり見たりできますが、反対側はできません。
そんな赤ちゃんでは手と手を合わせて遊べなかったり、両手でオモチャを持つことが遅れたり、左右の母乳の飲み方が違っていたりします。それらができるように助けてあげただけでも、赤ちゃんは喜びます。動ける赤ちゃんでは寝返り・這い這い・お座り・つかまり立ち・伝い歩きなどの運動パターンに左右差がないか、発達順序の逆転がないかなどを観察し、7つの姿勢反応・原始反射・社会性の発達などを評価して診断します。
ボイタ診断の大きな特徴は発達の遅れのみならず、不調和(dysharmony)を観察することです。障害がはっきりする前の状態を中枢性協調障害・脳性麻痺危険児などと診断します。左右差の強い姿勢運動パターンの赤ちゃんが成長して脳性麻痺ではなく、学習障害・ADHD・自閉症などの発達障害の診断を受けることも少なからずあります。
『反射性移動運動』には仰向きや側臥位にして始める反射性寝返りとうつ伏せで始める反射性腹這いがあります。反射性寝返りで出現する反応は生後3ヶ月から8・9ヶ月の正常発達に出てくる運動パターンです。
これに比して反射性腹這いは正常運動発達に見られる腹這いそのものではありません。しかし、出現した反応は肘での支え方や足での蹴り方など正常な運動パターンの部分反応を示しています。それは脳性麻痺児にとっては自然には経験できないパターンです。ボイタ法は寝返りや腹這いそのものを練習しているわけではありません。
仰向けから一側に寝返り、さらに四つ這いに進んでいく運動パターンが反応として現れる。
第I相では出発肢位は仰向け。3ヶ月児のように、仰向けで両下肢を挙上し骨盤を傾け、4ヶ月半の寝返りの準備段階までの運動パターン(筋活動)を再現する。誘発帯は基本1つ。
第Ⅱ相では出発肢位は側臥位。下側の上下肢で支え前方へ体幹を持ち上げ、上側の上下肢を上前方に振り出し、四つ這いになろうとする運動パターン(筋活動)を再現する。誘発帯は基本2つ。
出発肢位はうつ伏せ。片方の肘で支え、そこに身体を持ち上げていこうと反対の踵で床を蹴り出し前方に腹這いするような動作が反応として現れる。正常発達でいうと、3ヶ月からの頭部持ち上げから4ヶ月半の片肢支持、さらには1才過ぎの歩行開始までの足部での支持や蹴りだし等の運動パターン(筋活動)が再現できる。誘発帯は基本9つ。
ボイタ法の治療では理学療法士が御家族にお教えし、1日1~4回毎日家庭で行ってもらうのが基本です。1日の回数は年齢その他によって多少異なります。
赤ちゃんはいつもと違う運動パターンが起こって来ることにびっくりして、初めの内は治療中泣くことも多いですが、毎日行っていると慣れて泣かなくなります。治療が済んだ後、終わったことを伝えるために治療した人(お母さん)が抱いてあげるようにして下さい。全身運動をした後の恍惚感と相まって抱かれると同時にピタッと泣き止むようになり、治療してくれた人(お母さん)への愛着が強まっていきます。
反射性移動運動のそれぞれによって治療中に起こってくる反応(筋活動)には違いがありますが、すべてに共通していることは、脊柱の左右対称的な伸展(背すじをまっすぐにすること)で、これこそ脳性麻痺児には絶対に不可能な運動パターンです。
脊柱の対称的な伸展ができると頭を左右に回してオモチャを追視できます。両手を合わせて遊んだり、両足を触れ合わせたり、左右への寝返りも上手にできるようになります。肘での支えや手での支えが左右で同時に出来ることでうつ伏せの姿勢が安定し、回りを見回して遊んだり、手元のオモチャをなめて遊んだりできます。うつ伏せで左右に這って回転できるようになると視野は更に広がり、上下肢を交互に使う腹這い・四つ這い・一方の足を立ててのつかまり立ちを左右とも・机や壁での伝い歩き左右などと発達していけます。
治療中に脊柱の左右対称的な伸展の反応が起こるとき、眼球の左右への運動、ゴクンと唾を飲み込む運動、深呼吸などの反応も起こります。呼吸筋・腹筋の収縮が起こると同時に膀胱や腸での筋肉の働きも強められます。
このようにボイタ法の治療では、単に運動ができるようになるばかりでなく、表1や表2のような脳損傷児の早期兆候として見られる症状も改善します。こうした症状を重ねて示す赤ちゃんでは中枢性協調障害や脳性まひ危険児であることも多いのできちんと診断を受けて治療を始めることが大切です。これらの治療効果は乳幼児ばかりでなく、成人でも起こります。
哺乳 | 時間がかかる。量が少ない。むせやすい。よく吐く。ムラがある。音を立てて飲む。ゲップが下手。 |
呼吸 | ゼーゼーしやすい。チアノーゼになりやすい。声が小さい。泣き声が続かない。余り泣かない。風邪をひきやすく治りにくい。 |
睡眠 | 寝付きが悪い。眠りが浅い。中途覚醒。昼夜逆転。断続睡眠。眠ってばかり。泣いてばかり。 |
排泄 | 便秘しやすい。ガスが多い。頻尿。尿路感染症になりやすい。 |
体温 | 低体温。体温変動。手足が冷たい。汗をかかない。多汗。 |
視覚 | 斜視。眼球振盪。落陽現象。異常眼球運動。視線が合わない。固視・追視しない。 |
聴覚 | 音に敏感。音に無反応。 |
筋トーヌス | 手足が固い。股関節開排制限。手拳が目立つ。抱きにくい。体が柔らかい。そりかえりやすい。足が震える。 びっくりしやすい。 |
触覚 | 痛みを感じないように見える。過敏。 |
痙攣 | 時々急に体を固くする。顔や手足をピクピクさせる。 |
当然のことながら、治療効果を期待できる疾患は治療対象となりますが漫然と治療を続けるのでなく、目的を持ち効果を期待できる限り、乳幼児期から成人まで治療を続けることができます。
ボイタ法による診断と治療についてさらに詳しくお知りになりたい方は次の本を参考にしてください。
私たちの施設では、利用者の方に多くの職種が関わっています。良い治療・療育を提供するために、スタッフ間のコミュニケーションやチームワークを大切にしています。また利用者の方にとっては相談相手はたくさんいるということです。何か困ったことが起こったときには、主治医・各療法士・心理士・ケースワーカー・看護師・保育士・指導員その他多くのスタッフに、遠慮なくご相談下さい。
看護療育部は、看護職員と療育職員(保育士・介護福祉士・社会福祉士等)が入所されている幼児から大人の方一人ひとりの障害を理解し、施設の中においても楽しくその人らしく日常生活が送れるよう支援しています。
3つの病棟と外来部門に分かれています。
肢体不自由児の病棟です。小児の整形外科的手術やリハビリのために入院してきた子供たちを看護し、療育スタッフとともに楽しく生活できるよう工夫しています。
小児単独の入院は減少し、20代の重症心身障害者の方もともに生活しています。
医療的ケアの必要な重症心身障害児者の方が入所されています。
一般状態の良好な重症心身障害者の方が入所されています。
心身に重い障害を持っていても健康管理をしっかり行えば、外出したりできます。地域社会に参加できるように支援しています。
日々安定した健康状態を維持していくことで外出やイベントで楽しむことができます。外出した時の穏やかな笑顔を見たとき、悩みながら看護療育していく中でホッとさせられる場面です。小さな体験ですが大きな喜びです。
スタッフを募集しています。
肢体不自由児および重症心身障害児者の方々の治療・リハビリを行い、長期間安心して利用できる施設にするため看護師・介護福祉士の方を募集しています。
今までエントリーされた方のほとんどの方が『経験のない看護であり介護であるけどできるかしら』と不安をお話しされます。今働いている職員も同じ不安を抱いて勤務し始めました。気持がわかるから、入所されている方々のケアについて・業務の流れについて丁寧に教えます。まずはどんな職場か見学だけでもしてみませんか?
エントリーシートに記入して送信してください。または電話 075-462-7621 看護療育部長 谷口までお電話ください。
当センターでは、首のすわり・寝返り・座る・立つ・歩くなど、運動発達に遅れや障害のあるお子さんに対して、主にボイタ法を用いて、姿勢を整えながら、運動の発達を促しています。ご家庭でも行うことができるように御家族への指導も行います。また、日常生活に必要な応用動作を身につける為の指導も行っています。
必要に応じて、装具や、椅子/座位保持装置等の福祉機器のご紹介、作成、修理等も行っています。
当センターでは、障害を持った方々がより豊かに、主体的に生活できることを目標に6名の作業療法士が働いています。
対象児・者は、脳性マヒ等の様々な発達障害や中途障害を持つ小児から成人のみなさまで、個々の障害や年令とライフスタイルの違いを考慮しながら作業療法を行っています。
ことばの遅れ・発音の問題・人とのコミュニケーションがうまくいかない等のことばやコミュニケーションについて、また食物が「かめない」「飲み込みにくい」「むせる」等食事に関わる様々なご相談をお受けし、評価(検査)、指導、支援を行っています。
<主な業務>
お子様の持つ特性にあった発達支援につながる具体的な方法をご一緒に考えていきたいと思っています。
心理判定員 稲川 三千代
このホームページをご覧くださっている方の中には、お子さんの発達に不安を抱いてインターネットを検索しているうちに、当センターに行き当たったという方もいらっしゃるかもしれません。子どもにうまく接しているか自信がないという不安や子どもがまだ言葉を話さない。なかなか言葉が出てこない。などの悩みを抱えている親御さんに、” 5つのR(アール)*”という一つの子育てのヒントをご紹介します。参考にしてみてください。
*これは、米国小児科学会のニュース(2014年版)を基本にアレンジし加筆したものです。
読み聞かせ、言葉のキャッチボール、習慣化、ほめる、子どもとの良きパートナーシップ(安定した親子関係)が5つのアールです。
アメリカの小児科医であったペリー・クラス先生は乳児や幼児向けの“もの”の名前を書いた短い絵本で、指差しして名前を反復して話しかける、あるいは子どもにたずねることをすすめています 1。
お子さんが自ら選んだ小さな絵本が良いでしょう。読み聞かせと言っても、なかなか大人の思うようには行きません。2歳児ならば注意が集中できるのは数分間のとても短い時間であること、あるいは乳児ならばすぐ本を口に持っていったりすることを知っておいてください。ポイントは楽しくやることです。40回や50回したからといって、すぐに成果がでるものではありません。ある重い障害を持った女の子が毎日たくさんの絵本を読み聞かせてもらっているうちに、奇跡的に数々の機能が回復したというお話などはとても珍しいことなのです。いろいろと忙しい毎日、しかし、短い時間でも十分ですから、親子にとって、楽しい時間を造ることが大切です。そして、決してあせらないことです。お子さんが上手にできなくても、あるいは興味を示さなくても、失敗だと思う必要はありません。
「アーアー」とか、なにか“意味不明の音”を子どもが喋る時期があるのですが、これは一種の擬態語・擬音語*1のようでもある“喃語(なんご)”と呼ばれるオノマトペ*2というか、それよりもっと初歩の段階で、言語発達の第一段階です。喃語*3をいっている赤ちゃんは何かを伝えているわけですが、それを聞いている大人は推測できることもあれば、判らない場合も多いのです。不明の場合も多いのですが、母乳やミルクなどを指しているらしいこと、呼びかけをしていることが時々あります。
このとき、ぜひ、子どもが発した言葉を真似て、リズムを取ったり、子どもの目を見て、一緒に言ってあげてください。子どもにとって、大人が応えてくれることは、楽しくもあり励ましにもなります。
あなたがお子さんに絵本を読んであげる。あるいはおもちゃでしばらくの間、遊ぶなど、毎日はとても忙しいと思いますが、絵本を読んだり、言葉のキャッチボールを楽しむことをルーチンにしてみてください。例えば、寝る前の3分間とかでもOKです。毎日繰り返すことで、お子さんのお気に入りの時間になるといいですね。絵本の好みが変わったり、言葉のバリエーションが増えていくなど、お子さんの変化に気づくでしょう。習慣化することで、たとえ、その決まった時間でなくても、ちょっとした時間やタイミングで楽しく遊ぶことができるようになっていくでしょう。
これは言葉でほめてあげる。頭をなでてあげる。ハイタッチとかでオーケーです。笑顔を返す、拍手するなどお子さんにしっかりとほめていることを伝えてあげましょう。ほめることは励ますことです。子どもはほめられて嬉しくて繰り返し、自分の存在を肯定的に受け止めて発達していきます。
これら4つのRすべての項目を楽しく行うことが大切です。子どもの年齢が低いほど、上手く出来なくて当たり前です。時間がかかるものなのです。うまくできなきゃいけないとか、楽しまなくてはいけないと思いながらやっていると、口では優しそうに話していても、顔がひきつっているかもしれません。これでは、お子さんは楽しくありません。がんばりすぎて、NHKみんなのうたの『怪獣トットト 2』みたいにならないでくださいね!
“怪獣トットト”と言えば、毎日楽しく、と言われても、子育ては悩みの連続で、お母さん・お父さんは大変です。子どもと接していると、どうしても“キレそうになる”“怒鳴りたくなる”・・・このような状況は日常ではよくありますね。でも、怒りそうになったら、感情的にならないように、3秒間大きく息を吸い込んでゆっくり吐き出して・・・心を落ち着かせてください。
すべては、成長・発達の通過点です。先にも言いましたが、大事なことなので、もう一度言います。決してあせらないことです。子どもが上手にできなくても、あるいは興味を示さなくても、失敗だと思う必要はありません。楽しもうと無理に挑む必要はありません。繰り返しているうちに、いつか気づけば、楽しめるようになっているでしょう。本当か嘘か、ぜひ今日から試してみてください。
聖ヨゼフ医療福祉センター 発達相談室
【参考】
1. Lari O’Keefe: Parents who read to their children nurture more than literary skills. AAP News. June 14, 2014.
2. 怪獣トットト, 作詞:浅井みなみ, 作曲:江並哲志, NHKみんなのうた
【語句説明】
*1 擬音語・擬声語・擬態語:ギリシャ語由来でフランス語onomatopée (擬態語(ぎたいご):動き・姿などをあらわす言葉 ヒラヒラ。擬音語(ぎおんご):音を模したり、音であらわすことば わんわんなど)。
*2 オノマトペ:自然界の音・声、物事の状態や動きなどを音で象徴的に表した語。音象徴語。
*3 喃語:赤ちゃん言葉 クーイング:喃語の前段階2-3ケ月で「アーアー」など。